北川グループの研究紹介


1.1 有機モノリスカラムに関する研究

〇 モノリスカラムとは?

monolith  通常、液体クロマトグラフィー分析(HPLC)で用いられる分離カラムは、3〜5μm程度の球状シリカゲルや球状ポリマーを円筒管に充填した、 充填型カラムが一般的です。一方、近年「モノリスカラム」が、充填型カラムとは異なる種類の分離カラムとして、注目を浴びています。
 モノリスカラムは、スポンジ状の連続多孔体(正確には二相連続多孔体)を分離媒体として用いたカラムであり、充填カラムよりも空隙率が高く、 流路径も大きいという特徴を持っています。そのため、充填カラムよりも流路抵抗が小さく、
  1. 通常の充填カラムよりも長いカラムを用いることで分離性能を向上させることができる
  2. 比較的低い圧力で高流速送液が可能であり高速分離を行いやすい
などの特徴があります。
 モノリスカラムは、その素材によりシリカモノリスと有機ポリマーモノリスの二種類に大別することが出来ますが、当研究室では、有機モノリス カラムに関する研究を行っています。

〇 有機モノリスカラムによる高速分離

fastRPLC  一般的に、有機ポリマーモノリスカラムは、モノマー、架橋剤、細孔形成剤、重合開始剤からなる反応溶液を、カラム内で重合させることで調製します。 我々は、光重合法を低温下で行うことで、流路抵抗が小さく、且つ、分離性能の高いモノリスカラムの調製が可能であることを見いだしました。
 当研究室で開発した逆相クロマトグラフィー用有機モノリスカラムは、通常のHPLCポンプでも送液可能である33 MPa (330気圧)で、 110 mm/sという極めて大きな流速での送液(通常のHPLCは1〜3 mm/s)を行うことが可能であり、またこの高流速条件でも6成分の試料分離を行うことが できました(分離時間8秒)。さらに、低温下光重合をもちいて陰イオン交換カラムの開発を行い、UV吸収を持つ無機陰イオン6種を、 わずか20秒以内で分離することにも成功しています。

〇 有機モノリスカラムに関する基礎検討

 有機モノリスカラムは、上述の通り優れた分離性能を有してはいるのですが、重合条件と分離性能(カラム構造)等の関連は、シリカモノリスカラムほど 明確に解明されているわけではありません。当研究室では、有機モノリスカラムに関する基礎検討として、重合条件と分離性能・カラム構造の関係の関連性に ついての研究も行っています。また、有機モノリスカラムの分離性能が移動相条件により著しく変化する現象などについても、検討を行っています。

〇 超低流路抵抗カラムの開発

 モノリスカラムは、流路抵抗が小さく低圧で送液が可能である便利なカラムではありますが、我々は、通常のモノリスカラムよりもさらに流路抵抗が小さい 「超低流路抵抗カラム」の開発を、有機モノリスカラムの調製法を応用することで行っています。現在のところ、0.1 MPa (1気圧)程度の圧力で1 mm/sの流速 が得られ、また分離性能としては100 000 段/mを超える、低流路抵抗と高い分離性能を両立させたカラムの 開発に成功しています。

1.2 モノリス以外のカラム・固定相に関する研究

Au  液体クロマトグラフィーおよび電気クロマトグラフィーにおいて、固定相・カラムは分離を行う上で非常に重要な役割を持っています。我々の研究 グループでは、モノリスカラム以外についても、固定相(充填剤)やカラムに関する研究を行なっています。

〇 グラジエントカラムの開発

 通常のクロマトグラフィーカラムは、マクロな見地では場所によりその性質が変わらない均質なカラムです。我々は、あえて不均一性を導入することで 分離の高性能化を図る「グラジエントカラム」の開発を行っています。

〇 代謝関連物質分析を指向した混合充填カラムの開発

 生体の代謝関連物質は多種多様であり、一斉分離を行うことは極めて困難です。我々は、陽イオン性・陰イオン性・中性の全ての代謝関連物質を同時に 保持・溶出することが可能である手法の開発を目指し、複数種類の充填剤を混合充填したマルチモード分離カラムの研究を行っています。

〇 その他充填剤の開発

 チオール分子が金表面形成する自己組織化単分子膜を固定相として利用する「金被覆充填剤・金コロイド固定充填剤」の開発や、「外場応答性固定相(カラム)」の 開発なども行っています。


4.1 キャピラリー電気クロマトグラフィー(Capillary Electrochromatography: CEC)に関する研究

〇 そもそも「キャピラリー電気クロマトグラフィー」とは?

CEC01  キャピラリー電気クロマトグラフィーは、高速液体クロマトグラフィー(High Peformance Liquid Chromatography: HPLC)と キャピラリー電気泳動(Capillary Electrophoresis: CE)を組み合わせた分離分析手法です。単純に言うと、液体クロマトグラフィー用のキャピラリーカラム に対して、電圧を印加して分離を行う手法です。従って、キャピラリー電気クロマトグラフィーでは、HPLCにおける分離とCEにおける分離が同時に働きます。 そのため、HPLCやCEよりもより高度な分離や、より短時間での分離が期待できます。

〇 キャピラリー電気クロマトグラフィーの種類

CEC2  キャピラリー電気クロマトグラフィーは、圧力差流(ポンプ)を使わない電気浸透流送液型のキャピラリー電気クロマトグラフィー(狭義のCEC)と 圧力差流を併用するキャピラリー電気クロマトグラフィー(広義のCEC)の2種類に分けることが出来ます。通常、キャピラリー電気クロマトグラフィー という場合は、前者を指すことが多いです。これは、電気浸透流送液型のCECはフロープロファイル(キャピラリー内での流速分布)が均一である栓流(plug flow) であるため圧力差流(放物線状のフロープロファイル, parabolic flow)を用いるよりも、分離性能が良いという利点があるためです。

〇 北川グループでのキャピラリー電気クロマトグラフィー研究

CEC03  我々のグループでは主として後者の圧力差流併用型のキャピラリー電気クロマトグラフィーを用いる研究を行っています。 フロープロファイル的には不利なのですが、圧力差流併用型CECの利点として、
   1. グラジエント溶離の自由度が極めて高い
   2. 印加電圧の自由度が極めて高い
があげられます。
 ポンプで送液を行なっているため、通常の液体クロマトグラフィーのように複数のポンプを用いることでHPLCと同様のグラジエント溶離を 行なうことが可能です。電気浸透流送液CECでもグラジエント溶離は可能ですが、あまり一般的ではありません。
CEC04  我々が圧力差流を併用する最大の理由は電圧印加の自由度にあります。電気クロマトグラフィー(HPLC・CEでも)では、 試料成分はカラム入口から出口に向かって移動する必要があります。そのため、印加できる電圧は正・負いずれかのみになります(逆の電圧を 印加すると試料成分はカラム入口から出てゆく)。
 圧力差流を併用するキャピラリー電気クロマトグラフィーでは、圧力差流速度が十分に大きければ、仮に電気浸透流および電気泳動がカラム 入口方向へ向いていたとしても、試料をカラム出口へと輸送することが可能です。従って、印加電圧の正負および大小を任意に設定することが 可能になり、クロマトグラフィーだけでは不十分な分離を、電気泳動効果を加えることで容易に改善することができます。また、電気泳動効果を 上手く利用することで分析時間の短縮も可能です。
 圧力差流併用型CECでは、電圧を印加していない状態(液体クロマトグラフィー)でも分離を行うことが可能であるため、電気泳動効果が分離に与えている影響を 容易に把握することができます。我々は、圧力差流送液型電気クロマトグラフィーにおいて電気泳動効果を積極的に利用し、電気泳動分離と クロマトグラフィー分離の調和による分離性能の向上について種々の検討を行っています。

 最近の「お気に入り」のテーマは、グラジエント溶離により発生する不均一場での電気泳動を利用した分離の高性能化です。

4.2 平板型モノリスを用いる二次元直行型同時分離手法に関する研究

 近年、精力的研究が行われている、プロテオミクスやメタボロミクスなどでは、多成分を網羅的に分析する技術の開発が必要とされています。 生体中に含まれる多種多様な試料成分を網羅的に分析する際には、二次元ゲル電気泳動や二次元液体クロマトグラフィーのような、 二つ(またはそれ以上)の分離機構を組み合わせる分析手法がしばしば用いられています。これらの分離手法では、ある機構で分離した試料を、 別の機構で再度分離することで二次元分離が行われています(例えば、イオン交換分離を行った試料を、逆相クロマトグラフィーで分離する)。
 これに対して、我々は、平板型カラム上でのHPLC分離と電気泳動分離を組み合わせることで「一次元目の分離と二次元目の分離の同時進行」 が可能であることに着目し、平板型カラムを用いた新規二次元分離手法の開発を行っています。平板型カラムに注入された試料は、HPLCの原理に 従い圧力差流方向に分離され、同時に、圧力差流横断方向に電気泳動分離が行われます。
 本研究室では、現在、新規な二次元分離手法の基礎となる平板型カラムの開発、この平板型カラムを用いる二次元分離システムの構築、及び、 モデル試料を用いた分離性能・分離特性の評価を行っています。


5. その他の研究テーマ

5.1 インピーダンス測定に関連する研究

CEC05  キャピラリー電気クロマトグラフィーにおける電圧印加は、試料成分の電気泳動・電気浸透流の発生を目的としています。しかしながら、 我々の研究グループは、電圧印加が電気泳動・電気浸透流の発生以外にも種々の影響を与えていることを発見しました。具体的には、
   1. 電圧印加による試料−固定相間相互作用(保持比)の変化
   2. 電圧印加による分離カラムの電気抵抗(インピーダンス)の変化
などを見出しました。これらの現象のメカニズムはまだ十分には解明されていませんが、上記の現象を利用することで「交流電気クロマトグラフィー」や 「充填カラムのインピーダンス変化を利用するセンシング手法」の開発などを行なっています。

 また、モレキュラーインプリントモノリスを用いた生体関連物質のセンシング手法の開発も行っています。