飯國グループの研究紹介

 飯國グループでは、ナノ・マイクロ分析をキーワードとした研究を行っています。ナノ・マイクロ分析とは、ナノメートル(nm、10 -9  m)からマイクロメートル(µm、10 -6  m)サイズの物質を対象とした分析法、nmからµmサイズの空間や構造体を利用した分析法のことです。nmからµmサイズの物質として、生体試料中に含まれる細胞や細胞外小胞や工業製品中に含まれる合成無機、高分子微粒子等があり、これらの微粒子を分離、分析することは、医療診断や製品評価として重要です。また、nmからµmサイズの微小な空間や構造体を利用することで特異的な分析場のデザインが可能であり、微量分析や、高感度分析、高選択性分析が期待できます。
 そこで我々の研究グループでは、電磁泳動法とマイクロ流体デバイスを組み合わせた電磁泳動マイクロチップによるµmサイズの微粒子のための新たな分離分析法の開発や、nmからµmサイズの連続多孔体や規則的かつ局所的な構造をデザインし、これを利用した質量分析法の開発を行っています。


1. マイクロチップ電磁泳動(Microchip Electromagnetophoresis)に関する研究

1.1 「電磁泳動(EMP)」とは?

EMP01  分析対象に対して外場を印加した際に、非接触に物質が移動する現象を泳動法といいます。泳動法では電場、磁場、レーザー、音波など様々な外場が利用されており、対象物質の大きさや特性によりその泳動速度が決まります。我々の研究グループでは、主に磁場を外場として利用する泳動法を研究しており、電磁泳動もそのうちの一つです。
 電磁泳動とは、導体に対して磁場および電流を直交方向に印加した際に生じるローレンツ力を利用した泳動法で、微粒子を分散させた電解質溶液に磁場および電流を直交方向に印加すると、ローレンツ力とは逆向きに泳動する現象です。このときに微粒子に作用する電磁泳動力( F EMP )および電磁泳動速度( v EMP )は、印加する磁場( B )および電流( i )が大きい程大きく、さらに微粒子のサイズおよび表面特性に依存します。そのため、電磁泳動速度から微粒子のキャラクタリゼーションが、泳動速度の違いから微粒子の分離が可能となります。また、電磁泳動は、微粒子の前処理を必要とせず、どんな粒子でも泳動可能であり、磁場および電流によるその泳動速度や方向の制御が容易であるため、微粒子分離、分析法として有効な手法です。
 ちなみに電磁泳動を研究しているのは世界でも我々のグループのみです。


1.2 「マイクロ流体デバイス」とは?

EMP02  マイクロ流体デバイスとは、薄板状のガラスまたはゴムの内部に100 &181m程度の大きさの流路(溶液やガスを流すための路)が掘られたデバイスのことです。流路の長さは数mmから数十cmと様々で、流路の入り口や出口、流路自体が複数あるものがあります。この流路中に複数の溶液やガスを流すことで流路内で混合、反応、分離、精製を行ういます。非常に微小な空間であるため、試料の微量化や手法の高効率化、高速化、高精度化が可能となります。また、デバイス上に検出器を組み込むことにより、システムの小型化も可能となります。このようなマイクロ流体デバイスを用いた分析法をマイクロチップ分析と呼びます。


1.3 マイクロチップ電磁泳動による微粒子分離、分析に関連する研究

 様々な分野において微粒子の分離、分析は利用されており、高処理量能かつ単一微粒子レベルでの分離、分析法や、数千、数万個に1個、1 mLに数個等の非常に微量に存在する微粒子の検出、分離、回収が可能な高感度、高精度な手法の開発が期待されています。
我々のグループでは永久磁石を用いたマイクロチップ電磁泳動を利用することでこれらための新規な手法の開発を目指しています。

1.3.1 微粒子の電磁泳動速度測定

 微粒子の電磁泳動速度はそのサイズや表面特性に大きく依存しいるため、電磁泳動速度測定から微粒子のそれらのパラメーターの情報を獲得することが可能です。我々のグループでは、マイクロ流路中において各種微粒子や液滴の電磁泳動挙動を顕微観察することにより、画像解析からそれらの泳動速度を算出することで微粒子の表面特性分析を行っています。一方で、画像解析では、数多くの微粒子を分析するのに非常に時間を要することから、微粒子の光散乱検出と組み合わせることでリアルタイムかつ連続的に電磁泳動速度測定が可能なシステムの構築を行っています。

1.3.2 マイクロチップ電磁泳動による微粒子の連続分離

EMP03  外場やマルチフローによりマイクロ流体デバイス中を流れる微粒子の物質移動を制御することにより、微粒子の分離が可能となります。我々のグループでは、流路中の流れに対して直交方向に微粒子を電磁泳動させることにより、微粒子の流路横断方向の位置を制御することで微粒子を分離する手法の開発を行っています。この手法は、流路に導入された微粒子を一旦どちらかの壁に寄せることで分散を抑制(フォーカシング)します。次に、フォーカシングとは逆方向への泳動により、泳動速度の速い粒子と遅い粒子を複数あるうちの異なる出口において分離、回収を行うものです。本法では、電磁泳動速度差、つまり微粒子のサイズや種類(表面特性)により微粒子を分離することが可能となります。これまでに、本法を用いてポリマーラテックス粒子のサイズ分離や生体細胞等の異種粒子間分離を達成しています。現在は手法のさらなる高精度化、高効率化の検討を行っています。
 マイクロチップ分析におけるフォーカシングでは、主に流路の入り口において試料の流れとはとは別の媒体のみ流れを利用したフォーカシングを行う流体力学的絞り込み(Hydrodynamic Forcusing)が利用されていますが、この方法は処理量の低下や回収溶液が多量となる等の欠点があります。そこで、我々のグループでは、流体力学的絞り込みを利用せずフォーカシングと分離を逆向きの電磁泳動により可能とする手法の検討を行っています。

1.3.3 マイクロ流体デバイスおよび局所的外場デザイン

 上述したマイクロチップ電磁泳動による高効率かつ高精度な微粒子分離、分析法の実現のため、マイクロ流体デバイスの流路の形や構造をデザインし、ポリジメチルシロキサン(PDMS)を用いたソフトリソグラフィー法により様々なマイクロ流体デバイスを作製し実験に使用しています。その結果をフィードバックすることでよりよいマイクロ流体デバイスの設計、作製を目指しています。また、流路構造や磁石配置により、局所的かつ任意の方向への磁場および電流の印加による高度に制御された電磁泳動の実現を目指しています。これまでに、流路に半透膜ホローファイバーを埋め込んだ独自のマイクロ流体デバイスを開発し、応用を検討しいます。


1.4 ハイブリッド泳動法による微粒子分離、分析に関連する研究

 泳動法には電磁泳動以外にも下記のように様々な外場を用いた手法があります。
   ・電気泳動 (均一電場)
   ・誘電泳動 (不均一電場)
   ・磁気泳動 (勾配磁場)
   ・光泳動   (レーザー)
   ・音響泳動 (音圧)
それぞれの微粒子に作用する泳動力およびその泳動速度は微粒子の特性と外場の強度に依存します。そのため、単独の泳動法では印加できる外場の制限より微粒子の泳動力や泳動速度が小さくなる、特性の似た微粒子の泳動速度差が小さくなる等、分離、分析の速度や精度が不十分となる場合がある。そこで我々のグループでは二種類の泳動を組み合わせ、微粒子を異なる泳動法により同時かつ相補的に泳動させることで微粒子を高効率かつ高精度に分離、分析が可能なハイブリッド泳動法の開発を行っています。



2. 表面支援レーザーイオン化質量分析法(SALDI-MS)に関する研究

2.1 「SALDI-MS」とは?

SALDI01  生体高分子や合成高分子に対してマトリックス支援レーザーイオン化質量分析法(MALDI-MS)が有効な分析法となっています。(大谷先生の研究グループでもやられています) このMALDI-MSでは、試料と低分子量の有機マトリックスと呼ばれる試薬を混合し、そこにレーザー光を照射するとマトリックスがレーザー光を吸収することにより試料がイオン化され質量分析計に導入されます。その際、試料だけでなくマトリックスもイオン化されるため、質量電荷比1000以下ではマトリックスのシグナルが多数観測され解析が困難になります。そこで、マトリックスを用いないでイオン化をする方法として、SALDI法が注目をされています。SALDI法ではnmサイズの構造体を配置した基板上に試料を滴下し、そこへレーザーを照射するとことでマトリックスを必要とせず試料のイオン化が可能です。
 我々の研究グループでは、作製および取扱いが容易かつ定量性、再現性の高いSALDI基板のためのnmからµmサイズの構造体の作製法の検討を行っています。


2.2 簡易かつ再現性の高いSALDI基板作製に関連する研究

SALDI02  SALDIのための基板は、多孔質シリコン基板や基板上にナノ粒子の凝集体を配置したものが報告されています。これらの基板を用いたSALDI-MS測定において、その作製には専用の装置が必要であったり経験的であったりすること、作製から測定まで同一基板上で行うため時間を要すること等の制限があります。また、SALDI-MS測定のシグナル強度の再現性や定量性の向上には、構造体が均一であることが重要となります。そこで、我々の研究グループでは、作製および取扱いが容易かつ再現性の高いSALDI用基板の作製方法を構築しています。我々の方法は予め作製しておいた薄膜状の構造体を基板上に配置し測定を行うことで、時間の短縮および測定の再現性の向上を目指しています。そのような構造体として強度や均一性の面からシリカモノリス(二相連続多孔体)を用いて、イオン化に効果的な構造体の作製条件の検討を行っています。



具体的な研究テーマについては、 論文発表 学会発表 をご参照ください。